CEATEC AWARD 事例紹介
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AWARD受賞後の今:CEATEC AWARD 2021ソリューション部門準グランプリ受賞東芝による- 量子暗号通信で切り拓く安全なオンライン社会

出展事例

株式会社 東芝

2026年3月26日(木曜日)
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この記事を3行でまとめると…

  1. 量子技術による安全な鍵配送で次世代セキュア通信を実現するソリューションが、CEATEC 2021ソリューション部門準グランプリを受賞
  2. 長距離かつ高速な鍵配送を可能とする技術が、先進性・実装性の観点から高く評価された
  3. 受賞後4年で英国BT・仏Orangeなど世界各地で展開が加速し、2025年には仏パリで初の商用量子セキュア通信ネットワークサービスが開始

出展者プロフィール

Interviewee profile東芝デジタルソリューションズ株式会社
ICTソリューション事業部
データ事業推進部 新規事業開発担当
参事
大友 雅裕 氏

受賞されたソリューションについて教えてください

「東芝の量子暗号通信で安全なオンライン社会の実現」とは、量子暗号通信を中核とした量子セキュアコミュニケーションを実現するソリューションです。量子鍵配送(QKD)と耐量子計算機暗号(PQC)の技術を組み合わせることで、将来の脅威に対応可能な強固な通信基盤を提供します。

QKDは、光子を用いて暗号鍵を配送する技術です。光子は分割できない、光子の状態は完全にコピーできないという量子力学の原理に基づき、盗聴の有無を検出できます。盗聴が検知されなかった安全な光子のみで暗号鍵を生成・共有することで、理論上盗聴不可能な通信を実現します。

ここで重要なのは、既存の通信プロトコルやアプリケーションを大きく変更することなく導入できる点です。また、守るべき対象は暗号鍵であり、その鍵を安全に受け渡しすることで、将来の量子コンピュータによる暗号解読リスクを回避します。

PQCは、現在の暗号方式を拡張、強化するアプローチで、今の技術の延長線上にあるものです。一方、量子鍵配送は鍵の受け渡しそのものを量子力学の原理で守る点に特徴があり、両者は相互補完的な技術として位置づけられています。

なぜ今、対策が必要なのですか

実は、現在の通信回線は通信経路上でデータを盗まれても、検知できるとは限りません。データセンターへの不正侵入であれば痕跡が残ることがありますが、通信経路上でのデータ窃取は検知が困難と言われています。これまでは暗号化によって十分な安全性が確保されており、仮にデータを盗まれても情報の中身を解読するのが困難でした。しかし量子コンピュータの進化により、暗号化されたデータでも将来的に解読されるリスクが現実味を帯びてきています。

「量子コンピュータが実用化されてから対策すればいいのでは」と思われるかもしれませんが、暗号化されたデータを事前に収集し、将来解読を試みる可能性があります。これがHNDL(Harvest Now, Decrypt Later)と呼ばれる攻撃手法で、この脅威はすでに現実のものとなりつつあり、だからこそ今すぐ対策に着手する必要があります。

特筆すべき技術はどのような点ですか

QKDシステムの性能が非常に高い点です。大きく2つあります。

1つ目は鍵配送距離です。
一般に光子は減衰の影響を受けやすいとされていますが、東芝の技術では、通常の光ファイバーを用いても100kmを超える鍵配送を可能とする実績を積み重ねてきました。
これにより、中継拠点数の削減やネットワーク設計の柔軟性向上が期待されます。

2つ目は通信速度です。
単位時間あたりに生成・配送できる鍵量が多いことは、高トラフィック環境での実運用において重要な要素となります。
当社技術は、公開情報ベースで他方式と比較して高いスループットを示してきました。

東芝は長年の研究・開発で数々の世界初を達成してきましたが、やはり特筆すべきはこの通信速度と通信距離の2点です。

CEATEC AWARD に応募したきっかけを教えてください

実は、受賞の前年にも応募していたのですが、落選してしまいました。当時は2020年に事業化を発表したタイミングで、審査では「事業化がまだこれから」という判断だったようです。

1年後には事業化が始まっていましたので、「もう一度挑戦しよう」ということで再エントリーしました。量子暗号通信事業は2020年度から事業体制を構築し、2021年4月に東芝デジタルソリューションズで事業化。ちょうど秋のCEATEC開催タイミングで、同年10月に英国BTと「英国ロンドンで世界初の量子暗号通信の商用メトロネットワークを構築」と発表しました。製品化が完了し、顧客のリリースも出ていた良いタイミングでしたね。

受賞後、どのような成果がありましたか

国内外での認知度向上により、通信キャリアや金融機関との協業が大きく進展しました。具体的には2020年頃からグローバルに取り組んでおり、BT、Orange、KDDI、NTT、ソフトバンク、オプテージなど、多くが通信キャリアとのタイアップですね。
米国ではJPモルガン・チェースが自社のプライベートネットワークで検証を進めています。

歴史的には英国ケンブリッジで研究を始め、約30年携わっているトップエンジニアがいる英国では、国としても高く評価いただいています。2021年に英国での商用メトロネットワーク構築を発表してから4年で、公表できるものだけでもこれだけの実績になっています。

補足
欧州ではBTのロンドン商用メトロネットワークのトライアルにEY(2022年4月〜)、HSBC(2023年7月〜)、Equinix(2024年9月〜)が顧客として参加。欧州でのOpenQKDプロジェクト(2019年〜)、GÉANTによるTwin-Field実証実験(2024年5月)に参加。アジアでは韓国KT、シンガポールSpeQtralとの協業が進行。北米ではWells FargoのQKD PoC(2024年9月)、Purdue大学との原子炉遠隔監視制御デモ(2025年6月)、Quantum Corridorとの商用トライアル(2024年6月〜)、カナダNUMANAのKirqプロジェクト(2023年11月〜)など、地域と用途が広がっている(2025年12月現在)。

社内外からの反応はいかがでしたか

アワード受賞に伴い、プレスリリースにより広く告知していただきました。当時、量子暗号通信という言葉は社内にも浸透していなかったのですが、この受賞をきっかけに社内の認知が一気に進みましたね。社内では「世界標準を狙う技術」として高く評価されています。

社外のお客様からも、CEATECで評価いただいたことがきっかけでお声がけをいただきました。実用的に認められたということの裏返しだと感じています。

メディアからの反応も大きかったですね。大手技術系メディアなどにすぐ特集を組んでいただき、連載記事も出していただきました。ただ、技術的にかなり難しい分野ですので、記者の方々向けに何度もレクチャーを実施しました。わざわざレクチャーを受けてくださるということは、やはりメディアの方々にも強い関心を持っていただけたのだと思います。

展示会場では、アワードを掲示しているだけで「これ取ったんだ」と人だかりができました。CEATEC 2021は15万人近い来場者がいた中で、非常に話題性があり、ブースが大いに盛り上がりましたね。

製品化や社会実装の状況を教えてください

製品は既に販売を開始しており、グローバルで実証実験を展開しています。特筆すべきは仏Orangeですね。2025年6月にはOrange Business社と東芝がフランスで初の商用量子セキュア通信ネットワークサービスの提供開始を発表しました。

英国BTでも、2022年にEY、2023年にHSBCといった金融系のお客様が顧客としてトライアルに参加されています。日本は現在、技術的な検証を先に進めている段階です。

補足
仏Orangeは2023年6月に重ね合わせ伝送の検証、2024年2月に量子セキュア通信の検証を経て、2025年6月に仏国初の商用サービス開始を発表。日本ではNICT、KDDI、NTT、ソフトバンク、オプテージなど多様な検証・実証が進行中。米国ではJPモルガン・チェース、Cienaによる金融ブロックチェーン応用の実用性確認(2022年2月)も実施されている。

また、2026年1月28日には衛星搭載用QKD送受信システムの開発成功を発表しました。国家プロジェクトの中で研究開発を進めており、地上とシームレスにつながる成果が見えてきたところです。

CEATEC AWARD の魅力はどのような点ですか

技術の先進性だけでなく、社会実装の具体性を評価していただける点が魅力だと感じています。20年以上の歴史がある技術ではありますが、当時としてはまさに最先端のテクノロジーをしっかり見ていただいて、賞までいただけたことに大きな価値を感じていますね。

来場される一般のお客様やメディアにも受賞が明確に伝わりますので、集客という面でもアワードの効果は大きいと感じました。結果的にブースが盛り上がり、多くの方との新たな接点が生まれました。

編集後記

東芝の量子暗号通信は、長距離・高速な鍵配送技術を特徴とし、CEATEC 2021でソリューション部門準グランプリを受賞しました。受賞を契機に社内外での認知が進み、通信キャリアや金融機関を中心に世界各地で検証・実装の取り組みが広がっています。2025年には仏パリで初の商用量子セキュア通信ネットワークサービスが開始されたほか、衛星搭載用システムの開発にも成功するなど、社会実装と将来展開の両面で取り組みが進んでいる。

量子コンピュータ時代を見据えた安全な通信基盤の構築に向け、官民・国際連携を通じた社会実装が段階的に進められており、CEATEC AWARD はこうした先進技術の社会実装を評価する場として、技術の認知拡大と新たなビジネス機会の創出に貢献しています。

出展事例

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